(六)闇の世界へ
いつものように夕食の支度をしながら、秀雄の帰りを待っていた。
玄関のチャイムが鳴ったので、いそいそと出迎える。
「はーい。今行きます」
覗き窓から秀雄が見える。
「お帰りなさい」
ドアを開けて、秀雄を迎え入れる。
しかし、次の瞬間だった。
いきなり柄の悪い男達が秀雄と共に強引に入ってきたのである。
「邪魔するぜ」
「ほれ、おまえも早く入れや」
突き飛ばされるようにして玄関に転がるように崩れる秀雄。
「秀雄!」
秀雄に駆け寄るが、あちらこちらに殴る蹴るの痕があった。
「どうしたの? 秀雄!」
「理奈、ごめん」
やっとのことでそう口に出した感じの秀雄だった。
口の中を切っているのであろう、血が垂れていた。
「あなた達は、何ですか?」
こんなひどいことをした、この侵入者に向かって尋ねる。
「借金取りだよ」
「借金取り?」
「おうよ。そいつがとある所から金を借りて、返せなくなっちまったらしくてよ。こうして取立てにきたってわけよ。どうせ現金はねえだろうから、取りあえずは金目の物を頂いていこうというわけさ」
別の一人がわたしをいやらしい目つきで見つめている。
「秀雄……。ほんとうなの?」
「あ、ああ……」
申し訳なさそうに弱々しく答える秀雄だった。
「お嬢ちゃん、結構いいおべべを着ているじゃないか。ははん、そうか。こいつ、お嬢ちゃんに貢ぐために金借りたってわけだな。しかし、金返せなくちゃしょうがねえや」
「どうしようと言うの?」
「おまえ、なかなか可愛い顔しているな」
といつつ、わたしのあごを右手でしゃくり上げ、じっくりと観察するように言った。
「理奈に触るな!」
秀雄がいきり立つが、
「おまえはすっこんでろ!」
侵入者に腹を蹴られてうずくまる。
「ほう……。理奈っていうのか。いい名前だ」
さらに頭から足先までじろじろと嘗め回すように見つめていた。
「よし! このお嬢ちゃんを借金の形に貰っていくとしようか」
「ま、待ってくれ! 金なら……あ、明日中になんとか工面して返す。だから理奈を連れて行かないでくれ」
「もう、決まったんだよ」
再び蹴られてしまう秀雄。
「さあ、お嬢ちゃん。俺達と一緒に来るんだ」
と、手を掴まれて連れて行こうとする。
「い、いやです!」
抵抗するが相手の力は並外れていた。
か弱い女の子の力では腕を振り払うこともできなかった。
「や、やめてくれ。理奈を連れて行かないでくれ。理奈は病気なんだ」
「うるせえんだよ!」
殴る蹴る、散々に暴力を受けてついに失ってしまったようだ。
「さあ、行こうか。お嬢ちゃん」
わたしは、やくざな連中に抱きかかえられて連れ出されてしまった。
どうしようもなかった。
非力な十六歳の女の子には、秀雄を助けることも、力の強い男達を振りほどいて逃げ出すこともできない。いくら人造生命体だからといって、人間の数倍の筋力があったり、早く走ったりもできない、ごく普通の女の子でしかなかったのだ。
黒塗りのベンツの後部座席に放り込まれるように乗せられると、いずこともなく連れ去られてしまったのである。
仮に、通りがかりの人がいても、相手は暴力団らしきと知れば、こそこそと逃げてしまうだろう。