黒塗りベンツが街中を走っている。
ルームミラーを通してじろじろと見ている運転手が言った。
「どうします? 兄貴」
「そうだな……。これだけの玉は、そうそうざらにいないだろう。そこいらの売春宿に売り飛ばすのはもったいない」
売春宿と聞いて、わたしは身震いした。
人身売買で売られてしまうのか?
しかも売春……。
車から飛び降りて逃げ出したくても両脇を固められて身動きすらできなかった。
「じゃあ、黒猫館ですかい?」
「そうだな。それくらいの価値があるだろう。高く売れるぜ」
「黒猫館でいいですね?」
「ああ、そうしよう」
黒猫館……。
いったいどういうところなのだろう。
売春と関係あるのだろうが……。
「理奈とか言ったな。年はいくつだ?」
リーダー格と思われる男が尋ねた。
わたしは答えられないでいた。
「兄貴が、いくつだと聞いているだろう。答えないと……」
リーダーと反対側の男がどすの利いた声で怒鳴った。
「おい。大事な商品だぞ。怯えさせるようなことはするな。いくら身体がきれいでも、心がブッつぶれたら商品価値が下がるだろう。やさしくてやれ」
「へ、へえ。兄貴がそういうなら」
「なあ、もう一度聞く。いくつだ?」
「じゅ、十六です」
人造生命体に年齢はないが、一応その年齢を想定して仕上げている。
「そうか、十八未満か……。本来なら、法律的には問題があるが、裏の組織では関係ないからな。逆にそういう女の子の方が高く売れるんだよ」
ぞくりとする冷ややかな笑みだった。
車は市街地から郊外の静かな高級住宅街に入っていった。
「着きやしたぜ」
蔦の絡まる古風な洋風建築の豪華な邸宅だった。
「ここがおまえが働くことになる黒猫館だ」
大理石かと思われる立派な門柱に支えられた重厚な門扉が、まるで外界との連絡を遮断しているかのように閉じられている。
運転手がポケットからICカードのようなものを取り出して、門柱に設置されたセキュリティー装置と思われる端末に差し込むと、重い門扉が軋み音を立てて開いていく。
車はその門扉を潜り抜けて邸宅へ入っていった。
やがて背後で再び門扉の閉じられていく音。
それはまるで、逃げ出すことを許さない闇の世界に閉じ込めるように……。