プリンセスドール/洗い流して

(八)洗い流して

 儀式が終わった。
 男は立ち去り、わたしはベッドに臥して泣き続けていた。
 自ら身体を開いて男を受け入れなければならなかった屈辱に耐えて泣いた。
 誰かが近づいてきて、男の精液にまみれたその股間を拭ってくれていた。
 わたしは放心状態でなすがまま。

「これであなたも私達の仲間入りです」
 女主人は静かに言った。
 冷酷な心情を持って、か弱き女性を弄ぶ。
「さあ、シャワーを浴びて汗を流してください」
 もちろんそうさせてもらいたい。
 一刻も早く、男の体液を流し去りたい。
 メイドが動いて浴室と思われる扉を開けていた。
 立ち上がると、まだ膣内に残っていた精液が流れ出て、股間から大腿部を汚す。
 かまわずにそのまま浴室へ向かう。

 輝くように磨かれた大理石でできた浴室だった。
 すでにシャワーが出ていた。もちろん温水である。
 メイドがコックを開けたのであろう。
 これだけ大きな屋敷だと、コックを捻っても最初に出てくるのは水だ。温水が給湯器から配管を通って蛇口から出てくるまでにはかなりの時間が掛かるだろう。前もって出していたと思われる。
 とにかく、シャワーだ。
 頭から被るようにしてシャワーを浴びる。
 やがてゆっくりとシャワーを下へと移動させる。
 そして、股間に向かって勢い良くシャワーを当てる。
 乾き始めてまとわりついていた精液が溶けて流れていく。
 たとえ跡形もなく流し去ったとしても、心に出来た傷跡は流されることないだろう。

 浴室から出ると、待ち構えていたように、メイドが寄ってきてバスローブを掛けてくれた。
 まるで客にたいするようにやさしく丁寧な仕草だった。
 もちろんこれは、はじめて仲間入りした者にたいする挨拶みたいなものだろう。
 明日からはこうはいかない。
 純然たる仲間として、きびしい戒律に従っての生活となるはずだ。

 水の入ったコップを乗せたトレー盆を抱えたメイドを従えて女主人が何かを差し出した。
「さあ、これを飲みなさい」
「これは?」
「事後避妊薬です。飲めば妊娠しません」
 なるほどそういうわけか。
 ここではメイドと称しているようだが売春婦には違いない。それが妊娠してしまって客を取れなくなったら商売にならないというわけである。

 避妊薬か……。
 わたしはプリンセスドール、人造生命体だ。
 呼吸をし食物を摂取しなければ生きていられない、ほぼ完璧に人間に近い。
 だが、一つだけできなかったことがある。
 妊娠し子孫を残す能力である。
 確かに機能的に男性を受け入れることはできる。
 子宮や卵巣はあるし、女性ホルモンも分泌する。
 しかし肝心な卵子がないのである。
 生命の根源である卵子を人工的に作り出すことができなかった。
 それができたならば、真の意味での人間だったのであるが……。
 飲む必要はない。
 しかし、飲まないわけにはいかないだろう。
 人間であったならば、性行為をすれば妊娠するものだ。
 ここにいるメイド達にとっては、絶対不可欠な物であろう。
 あえて飲まないでおいて、妊娠しないことを気づかせて、人間ではないことを知らしめるか?
 いや、それは無駄なことであろう。
 女主人にとって、外見が人間の女性であって、男を悦ばすことさえできればそれで十分なのである。妊娠しないと判ればなおさら好都合というものである。男を相手にしなければならない回数が増えるだけであろう。
 わたしにとっては必要のないものではあるが、黙って飲んでおいたほうが無難だ。
 薬を受け取って口に含み、コップの水と共に飲み込んだ。

「明日から、早速メイドとして働いて頂きます。午前八時までに起床して下さい。前夜に殿方のお相手をした時の起床時間です。お相手をしなかった場合は、午前五時半となっておりますので、覚えておいて下さい」
 つまり客の相手をした時は、肉体的精神的に疲れるからということだろう。
 疲れた身体の状態のまま次の客をとれば、相手を満足させることが出来ないかもしれない。信用問題に関わるというわけだ。
 ここは高級娼館のようだから、利用する相手もそれなりの地位にある人間。おそらく会員制か上客の紹介状かなんかがなければ利用できないはずだ。当然信用を失えば、間違いなく娼館を運営できなくなる。
「今日のところは、これで休んでも結構です。同室となる奈緒美さんに案内させます」
 と、一人のメイドが前に出てきた。
 ここでは相部屋というわけか。
 客からたくさんの指名を受けて一番くらいになれば個室をあてがわれるかもしれないが。
「どうぞ、こちらへ」
 静かに先に立って歩き出す、奈緒美と呼ばれたメイド。
 その後をついていく。
 メイド姿も凛々しく隙のない歩き方。
 しっかりとメイド教育を受けているのであろう。
 彼女もやはり、今日のわたしのようにされたに違いないが、その表情からはまったく伺われなかった。

「ここが、あなたとわたしのお部屋です」
 二階に上がった先にある通路の真ん中あたりの部屋。
 一階の重厚な扉ほどではないが、結構大きな扉であった。

     ⇒準備中