性転換ショート集/ショーツパニック
ショーツパニック
目が覚めるとそれはそこにあった。
部屋の窓際の勉強机の上。
可愛いレース飾りのある女物のショーツ。
なにこれ?
昨夜はこんなもの机の上にはなかった。
もちろん自分で置いた覚えもないし、自分の物ではなかった。
そういう収集趣味も持ち合わせてはいない。
となると問題は、これがどうしてここにあるかだ……
まわりを見回してみる。
部屋の中は相変わらずの小汚いいつもの様相を呈し、誰かが侵入したという形跡は見られなかった。
ドアからこの机まで歩いてくるとすれば、散らかっているカップラーメンの空きカップや、読みかけの雑誌などを踏まずにはおれないだろう。それらの位置が微妙に違ってくるはずだが、朝に出かける時の状態のままだった。トリックをあばいて犯人を当てる推理小説が好きなので、こういう事件現場の配置状態とかの記憶力は研ぎ澄まされている。
まるで天井を突き抜けて舞い降りてきたという感じ。
ランジェリー姿の女の子の写真が掲載されている雑誌は当然として持っているし、これまでにも女の子の着替えとかを覗いたこともある。
男心として女の子の下着には興味がないといえば嘘になる。
しかし、生のショーツを目の前に、一度も触ったことがなかった。
はじめての経験。
「触ってみなさいよ」
誰かが語りかけてきた。
な、なに?
あわてて手を引っ込めて辺りを見回す。
しかし、誰もいるはずのない部屋。
いるのは自分ひとりだけである。
だとしたら、今の声は?
「何を驚いているのよ。ここにはあなたしかいないわよ」
まただ……。
一体どこから。
机の上のショーツに目をやる。
この部屋には自分一人しかいないはずである。
他に何かあるとしたら……。
まさかな……。
「そうよ。語りかけているのはあたし」
ほんとうかよ。
もの言わぬはずのショーツが語りかけているように感じた。
う、うそだろう?
いや、確かにショーツが語りかけている。
「どうしたの? 触ってみなさいよ」
それは意識に語りかけているみたいだった。
ありえない。
とは思いつつも、そう考えるしかなかった。
「女物なんて触ったことがないんでしょ?」
そうは言っても、なんかなあ……。
やはり女物のショーツを触るのにはさすがに抵抗感がある。
「このままずっとここに置いたままにしておく?」
そうか……。
何にしても、このショーツをどうにかしないといけないだろう。
そのためにも触る以外にはなかった。
そっと手を伸ばしていく。
ショーツが手に触れた。
「そうよ。別に危険なものじゃないのよ」
やわらかい……。
触った第一印象だった。
今まで履いていたブリーフと比べてみる。
そのやわらかさといったらブリーフなんか鉄みたいだ。
そして随分小さいなとも思った。
それにしても女性たちが、こんな小さなものを履いていると思うと不思議に思った。
女性の腰は男性よりも大きいはずだ。
じっくりと観察してしまう。
結構生地が伸びるな。
そうか、わかった……。
女の子には邪魔なモノがないからだ!
男物は、蒸れたりしないように、通気性を考えてゆったりめに作られている。
何せアレは、精子生産能力を維持させるために体温より冷却する必要があって、だからこそ体外に露出しているのだから。
しかし女の子にはその必要がない。
ぴったり肌に密着するようにできていても何ら支障がない。
「どう?
履いてみたら?」
また、ショーツが語りかけてきた。
そ、そんなことできるわけないじゃない。
そう、言われても……。
「ほら、誰も見ていないのよ。履いてみるくらい、いいんじゃない?」
確かにそうかも知れないが、しかし……。
「恥ずかしがることないじゃない」
そういう問題じゃないと思うが。
「いくじなしね」
誰がいくじなしだ!
問題のすり替えじゃないか。
「じゃあ、どうするの? 捨てる?」
捨てるか……。
なんかもったいないような気がする。
こんな可愛いショーツだ。
持っているだけでも……。
「だめよ。匂いを嗅いだり、頭にかぶったりするのは」
誰が、そんなことするか!
しばしショーツを眺めながら考えてしまう。
手の温もりが伝わって、ほんわかとした感じになっていた。
履いてみるくらいなら、いいかな……。
「そうそう。ショーツは飾っておくものじゃないわよ」
魔が差したというべきだろうか。
一度くらいならいいんじゃないかな……。
「思い立ったが吉日よ」
服のボタンに手が掛かる。
すでに意識は、ショーツを履いてみようという気になっていた。
「部屋の鍵は閉まってる?」
あ、そうか……。
急いで、戸口の所へ行って、鍵が掛かっているか念のためにチェックする。
万が一誰かが入ってきたらとんでもないことになる。
一生の笑いものにされちゃうものな。
服を脱いでいく。
ベルトを外してズボンを降ろしていく。
後はブリーフを脱いで……。
「ちょっと、待って。上も脱いだ方がいいわよ」
どうして?
「やっぱりこういうことはきっちりしないとね。女の子のショーツ履くのに、上が男物がアンバランスじゃない?」
それは確かに言えている。
寒くもないし……。
というわけで、上も脱いでしまうことにする。
最後のブリーフを降ろした。
すっぽんぽんになった。
「さあ! ショーツを履いてみましょう」
身体が緊張して微妙に震えていた。
生まれてはじめて体験することに冷や汗も流れている。
「椅子に腰掛けたら?」
そうだね。
足が震えてまともに立っていられない感じ。
座った方がいいかも知れない。
言われるとおりに椅子に腰掛けてみる。
「落ち着いてね。深呼吸しましょう」
スーハーと大きく深呼吸して、呼吸を整える。
「じゃあ、まずは右足からね」
ショーツに右足を通していく。
そしてもう片方……。
両足にショーツが掛かった。
「そうよ。そのまま一気に上にずり上げるのよ」
心臓がどきどきと早鐘のように脈打っている。
な、なんか……。やっぱり緊張しちゃうな……。
「大丈夫。誰でも最初はそうなのよ」
誰でも? 最初?
はじめて女装する人って、みんなこんな気持ちだったのかな……。
ふと自分の今の心境を思ってもみる。
なんかわからないが……。
ショーツを膝の上辺りまで上げた。
「さあ、立ち上がって」
ショーツを履くには、椅子に腰掛けたままでは不可能だ。
どっこいしょ。
「おじんくさいわね。どっこいしょって」
うるさい!
緊張してて、身体が重いんだよ。
「ふん!」
さらにショーツを上へと這い上げる。
生地が腰を覆ってまとわり付くように吸い付いてくる。
伸縮性があるから、小さくても意外と腰を包み込んでしまう。
ふうっ!
すっぽりとショーツが股間におさまった。
「ついにやったわね!」
はじめてショーツを履いたのだ。
なんか変な気分だ。
「可愛いわよ」
たしかにそうかも知れない。
しかし……。
「どうしたの?」
可愛いショーツなのに……。
股間の膨らみが邪推だ。
いわゆる「もっこり」というやつである。
せっかくの可愛いショーツもこれでは興ざめしてしまう。
やはりアイドル写真などに見られるように股間にぴったりと食い込むような感じでないと……。
「そうね……。やっぱりそうよね。じゃあ、こうしましょうか」
ショーツが、そう言ったかと思うと……。
な、なんだ!
急に股間が痛み出してきた。
見る間に股間の膨らみが小さくなっていく。
え?
あわてて股間を押さえてみる。
急速にそれが縮んでいくのかはっきりと判った。
ちょ、ちょっと待ってくれよ。
「黙ってて、今忙しいの!」
すでにそれは見る形もなくなっていった。
しかも身体の変化はそれだけではなかった。
下を向いて股間を覗いていた視界にある胸部が膨らみ始めたのである。
最初は乳首がつくんと張り出したかと思うと、やがてそれが広がっていって胸全体が大きく盛り上がってきたのである。
胸の膨らみは見る間に大きくなっていき、すでに胸の膨らみが邪魔になって、股間を見ることもできなくなっていた。
乳房か?
ふわりとその乳房にかかるように垂れ下がってくる長いしなやかな髪の毛。
お、女の子になっちゃうよ!
や、やめてくれ……。
ショーツに向かって懇願する。
「いいのよ。女の子はいいわよ」
いいわよと言われてもなあ。
「こんな可愛いショーツとかランジェリーとか着れるようになりたいと思わない?」
冗談じゃないよ。
そんな趣味はこれっぽちもないぞ。
「もう遅いわ。あなたは女の子になるのよ」
やめてくれ!
男に戻してくれ!
だが女性化への変化は留まることを知らなかった。
このままでは、本当に女の子になってしまう。
そうだ!
ショーツを脱いでしまえば……。
ショーツに手を掛けてずり降ろそうと試みる。
ところがショーツは、まるで股間に張り付いたかのように、脱ぐことができなかった。
う、嘘だろう。
「だめよ。中途半端になってしまうじゃない」
中途半端といってもなあ……。
「いいから、最後まで黙って見ていなさい」
これが黙っていられるか!
さらに力を加えてショーツを脱ごうと試みる。
「諦めが肝心よ」
まるであざ笑うかのようなショーツの言葉どおり、無駄な抵抗だった。
さらに留まることなく、身体全体も細く丸くなっていく。
細くくびれたウエスト、大きく張り出したヒップ、なで肩から腰までのラインはまさしく女の子のそれだった。
次第に女の子の身体が完成に近づきつつあった。
なんでこんなことになってしまったんだ……。
今更後悔してもしようがない。
すべてが終わった時……。
どこかの学校の制服を着込んだ 可愛い女の子が一人。
部屋の中に立ちすくしていた。
その女の子が、ぽつりと呟く。
「汚い部屋ね。まずは、お部屋の掃除からね」
机の上に小汚い男物のブリーフがあった。
「なによこれ、汚いわね」
というと女の子は、そのブリーフをゴミ箱に捨てると、何事もなかったかのように部屋の掃除をはじめた。