梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件
(六)父島到着
東京から南に約1,000km。2011年6月に世界遺産として登録された、小笠原諸島
「父島」に到着した。ボニンブルーの海に囲まれた亜熱帯の海洋島である。
小笠原諸島には、大型客船を泊められる港がないために、「ブイ係留(浮標係
留)」という方法をとる。
★ブイ係留(浮標係留)とは
2つの大きなブイに船の前と後ろを繋ぐ、世界的にも大変珍しい係留方法です。
ブイに係留してからは、漁船と客船を繋ぎ、漁船やテンダーボートに乗り換え、ピ
ストン方式でお客様を陸まで運びます、それを通船と言います。
その作業は島の観光施策もあって地元の漁業者によって行われています。港に入
るとまず本船から係留ロープを引き出し、それを漁船で待ち構える漁師が受け取り
ブイまで引っ張り、手早くロープをブイに繋ぎます。
参考動画
こちら
この方法では、気象条件が良くないと係留することができずに上陸できない。
なので、天候が回復するまで、島を遊覧することになる。
「今日は天気が良くて助かったね」
係留作業が完了した頃合いをみて、一隻の中型船が近づいて来た。
小笠原諸島周辺を回る、定員200人の貸し切りクルーズ船のようだ。
「本船のご利用ありがとうございました」
特別待遇だったとはいえ、客は客だ。
豪華客船のクルーが、見送りに出ていた。
本船の客船用水平格納型振り出し式舷梯装置を作動させて、中型船の甲板上に直
接降りられるようにした。
揺れる舷梯から落ちた場合に備えて、救命胴衣を着用する。
おっかなびっくりで、手すりにしがみ付くように降りてゆく生徒達。
「冷や汗かいた〜」
無事に全員が中型船に降り立つ。
救命胴衣が回収されて、本船へと運ばれてゆく。
最後の見送りとして、デッキから手を振っているクルーだった。
「ありがとうございました」
生徒達も手を振り頭を下げて、感謝の意を伝えようとしている。
係留ブイが外され、やがて豪華客船は、次の寄港地グアムに向けて、静かに出発
した。
「これより父島に向かいます」
潮風にかき消されないようにメガホン片手に、ガイドが説明する。
「今日は港に入り次第、旅館に直行します。お風呂に浸かるなどして、疲れをお取
りください」
丸二日間船に揺られてきたのである。
若さゆえに疲れを感じない生徒も多いだろうが、実情は身体は疲れ切っているは
ずだ。
波に揺られて満足に睡眠も取れていないだろう。
そうこうするうちに、船は父島二見港に到着した。
下船する生徒達。
久しぶりに揺れないしっかりした大地を踏んだのだ。
「なんか、今でも揺れているような気分だよ」
「あたしもよ」
「おお、スマホが繋がったよ」
父島には基地局があるので、スマホが通じている。
受信範囲はメーカーキャリアによって差があるので要確認。
「これでやっと日常が戻ってきたって感じね」
「納得!」
港には、15時発東京行きの小笠原海運『おがさわ丸』が停泊していた。
東京・竹芝港〜父島・二見港を片道約24時間で結ぶ貨客船で、車は乗船できない。
ほぼ6日ごとに発着を繰り返している唯一の定期船。東京から父島に着いたら、強
制的に3泊を強いられ必ず5泊6日のプランとなるという。
「帰りは、あれに乗るのか?」
「いいえ。篠崎観光のチャーター船で帰るわ」
慎二の質問に絵利香が答える。
「旅館行きのバスです! 皆さん、お乗りください」
ともかく、今夜の宿泊旅館へと向かう。
荷物を置いて、夕食とって、夜となり就寝の準備が整えられた部屋で、枕投げが
始まる……と思いきや。
全員、バタンキュー!
疲れ切って、そのままグッスリ眠り込んでしまったのである。