第六章
Ⅴ 王位継承の証
サラマンダー号は、ついに祖国トラピスト星系連合王国首都星へと帰ってきた。
高性能ワープドライブ装置によって、寸分違わず所定の位置にワープアウトし
てきたのである。
船内の全モニターには、目の前に青く輝くトランターが映し出されていた。
食い入るように見つめる乗員達。
モニターがアレックスの映像に切り替わり、船内及び地上に向けての放送が始
まった。
『私は、トラピスト連合王国第三王子フレデリックの子、アレクサンダー。フレ
デリック王子夫妻の亡骸を運んできている。空港への着陸許可を願いたい。一応
警告しておきますが、この船には縮退炉が搭載されていますので、万が一の場合
にはそれを爆縮させることもできます』
セルジオ弁務コミッショナー執務室。
テレビ映像がアレックスの放送を流していた。
「縮退炉って、確かブラックホールを利用するエンジンや発電機ですよね。まだ
開発段階と聞いていましたが……」
秘書官が首を傾げていた。
「先の戦いでは、荷電粒子砲をぶっ放した船だ。それを実用化させたんだろう。
信じられないがな」
「如何いたしますか?」
「いわばブラックホール爆弾を抱えて飛び込んできたんだ。しばらく様子見だ。
好きにやらせておこう」
「分かりました。着陸許可を出します」
連絡を入れてから、
「それはそうと確か誘拐されたかという、太陽系連合王国のイレーヌ王女も一緒
におられるかと思いますが……」
「相手は、そのことは何も言ってきておらん。クロードからは連絡はきてないし、
放っておくさ」
「いいんですかね」
「知ったこっちゃないよ」
「分かりました」
王室専用空港。
上空からサラマンダー号が着陸しようとしていた。
ターミナルビル空港ロビーには、放送を聞いてクリスティーナ女王が出迎えに
来ていた。
横づけされたサラマンダー号に、ボーディング・ブリッジが接続される。
「いらっしゃいましたわ!」
侍女が連絡通路口に現れたアレックスを確認した。
フレデリック夫妻の眠る冷凍カプセルを運ぶアレックスに駆け寄る女王。
カプセルの中を覗いて、
「間違いありません。フレデリック王子です」
言いながら、アレックスを見つめる。
「あなたがアレクサンダー……ですね」
「はい」
小さく頷く。
「あなただけも生きて帰って嬉しいです」
言いながら、アレックスを抱擁する。
しばしの無言の時間が流れる。
「私は、仲間を連れて新天地に向かおうと思っています。銀河渦状腕間隙の向こ
う側へ」
「新天地?」
「御存知かと思いますが、仲間のほとんどが脱獄者です。この地にいることはで
きません。されども押して帰国したいと願う者もいます。その者たちの擁護をで
きませんか?」
「それは可能だと思いますけど……」
「よろしくお願いします。それでは、私はこれで……」
血が繋がっているとはいえ、これまで一度も面識のない関係である。
淡白な対応をするのも無理からぬことだろう。
「ちょっとお待ちを」
呼び止める女王。
立ち止まるアレックス。
「あなたにこれを」
と首に付けていた首飾りを外して、アレックスに手渡した。
「これは?」
アレックスが尋ねると、
「トラピスト連合王国において、王位を継ぐ者が身に着けるものとして、古くか
ら受け継がれてきた由緒ある秘宝の首飾り『王位継承の証』です」
それは中心に深緑色の大粒のエメラルド、周辺に小粒のダイヤモンドを配した
首飾りだった。
「王位継承の証?」
「この王国は私で最期となるでしょう。今後は、ケンタウリ帝国の息の掛った傀
儡(かいらい)の王が選ばれます。ですから、真の継承者たるあなたに譲ります」
「よろしいのですか?」
「あなたが目指す新たなる地で国を興こそうとした時、国王となすためには必要
となるものですから」
しばらく考え込むアレックスだった。
「分かりました。ありがたく頂いておきましょう」
「あなたの子孫は、きっと必ず銀河を統一できるでしょう」
それが何百年後になるかは、この時点では計り知れないだろうが……。
空港にはもう一人の人物が降り立っていた。
アンドレ・タウンゼント少佐である。
「来ているはずだが……」
当たりをキョロキョロと見まわしている。
すると向こうから、小走りで掛けてくる女性が現れた。
彼の恋人のエミリアだった。
飛びつくようにアンドレに抱き着くエミリアだった。
「生きていてよかった……」
かいつまんで、事の成り行きを説明するアンドレ。
「それで、新天地へ君も着いてきて欲しい」
単刀直入に説得する。
「もちろん、あなたの行くところへはどこへでも着いていきます」
「ありがとう」
そして彼女を強く抱きしめる。
数時間後、下船を希望した者を除いて、新天地への旅路に向かう人々を乗せて
サラマンダー号が発進した。
宇宙空間に出たところで、接近する数多くの船が現れた。
「通信が入っています」
「繋いでくれ」
通信士が繋いで、モニターに相手が映し出された。
「私は、この船団のリーダーです。私たちも、新天地へ連れて行ってください」
「保証はできないが」
「かまいませんよ。ケンタウリの圧政を忍ぶよりも自由がいいですから。それに、
この船には開拓に必要な設備も搭載していますから、お役に立てると思うのです
が」
「分かりました。一緒に行きましょう」
「ありがとうございます」
そうこうするうちに、船団は数百隻に膨れ上がっていた。
話を聞くと、クリスティーナ女王から応援の依頼があったそうだ。
他の船からも次々と連絡が入って、新天地に向かっての開拓船団が出来上がっ
ていった。
「進路、『タルシエンの橋』へ向かえ!」
アレックスが下令すると、
「了解。進路、タルシエンの橋!」
船長のアンドレが復唱する。
ゆっくりと動き出す開拓移民船団。
タルシエンの橋を渡った先の未踏の地、いて・りゅうこつ腕へと向かう。
セルジオ弁務コミッショナー執務室。
窓から、サラマンダー号が発進するのを眺めているセルジオ弁務コミッショ
ナー。
秘書官が、サラマンダー以下の船団が新天地に向かうことを危惧していた。
「彼らを、行かせてもよかったのですか?」
「構わんよ。反乱分子は出て行ってくれた方がいい。それに、奴らが新天地での
開拓を終えて発展しはじめた頃に、我々が出向いて行って占領すれば、自分で開
拓する努力はいらない」
「なるほど……いや、それって何十年、何百年先の話ですか?」
「何にせよ。奴らがどちらへ向かうか、索敵しておくべきだな」
「すでに長距離探索艇を出しています」
「なら良い。さて、女王様に会いに行くか」