梓の非日常 第二部 第八章・小笠原諸島事件
(十三)本物とクローン 「こんなクローンを作って、一体どうしようというの?」  説明が長々と続いたので、肝心なこと聞くのが遅れた。 「純粋なる研究目的です」  一言おいてから、 「と、言っても信じないでしょうね」 「当然です!」 「クローンでよくある話では、某国の大統領に化けて国を乗っ取るとか……あるじゃないですか」 「確かによくある話ね」 「それともう一つ。実は、あなた自身がクローンで、この中の人物が正真正銘の本物だと言ったら?」 「考えられるわね」 「否定しないのですか? 意外ですね」 「あの事故で蘇生した当時、あたしの意識の中に長岡浩二君がいたのは確かよ。だから、記憶を移植したということには真実であると思っているわ。それができるのであるならば、クローンを作った上で、一部だけでなく全ての記憶を移植して、梓という人物をもう一人生み出すことも可能かもしれない」 「なるほど、そこまで理解していただけると嬉しいの一言です」 「仮にあたしがクローンだったとしても、遺伝子的には真条寺梓そのものを受け継いでいるわけだしね。本物と言ってもいいんじゃなくて?」  パチパチと手を叩いて感動を表す研究員」 「素晴らしい! まるで悟りを開いて真理を会得したみたいですね」  これまでの間、じっと聞き耳を立てるだけの慎二。  体育会系の彼には、とても会話の内容に付いていけるはずがない。 「でよお。この中のクローンとかいう奴は、生きているのか?」  そう聞くのが精一杯のことであろう。 「確かに、それは重要なことですね」 「生きているの?」 「さあ、どうでしょうねえ。少なくとも外見はあなたそのものですがね」  はぐらかして答えない研究員。 「そうか……。ならよ」  そう言ったかと思うと、手近な椅子を取り振り上げて、培養カプセルを破壊する。  ガラスが砕け散り、培養液の飛沫が床一面に流出し、中にいたクローンがゴロンと転げ落ちた。 「な、何をするんだ!」  驚く研究員。  梓も言葉を失っていた。 「クローンが何者かは理解できんが、俺にとっては梓ちゃんは一人。ここにいる梓ちゃんだけだ!」 「なんということだ! せっかくの研究成果が……」  二者択一を迫られた時、躊躇なく選択する強い意志を持つ慎二だった。  地下研究所においても、長岡浩二の身体を捨てて梓を救う道を選んだ。  その時、入り口付近が騒がしくなった。 「おやおや、邪魔が入ったようです」  研究所になだれ込んできた者は、サブマシンガンを抱えた軍人だった。 「梓お嬢さま! いらっしゃいますか?」  そしてかき分けるように入ってきたのは、竜崎麗香だった。 「麗香さん!」 「お嬢さま! ご無事でしたか!」  どうやら米軍が捜索救助に出動したようだった。  感動の再会を果たした二人と一人。  研究員は、立場悪しと少しずつ後退して、隣の部屋へと隠れた。 「待て!」  慎二が追いかけるが、鍵が掛かって開かない。 「ちきしょう!」  やがて外の方で轟音が響いた。  外へ出てみると、一機の戦闘機が島から発進したところだった。  すかさず麗香がスマホで連絡する。 「今発進した戦闘機を撃ち落として下さい」  十数秒後に、外洋に停泊していた艦艇からミサイルが発射された。  ホーミングミサイルによって撃墜される戦闘機。  機体はバラバラになって海へと落下した。 「ともかく迎えが来ています」  岸辺に接弦していた艀に乗船して、沖で待つ駆逐艦へと向かった。
     
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