梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(六)結婚許諾か?
2021.05.09
続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない
(六)結婚許諾か?
数日後。
ブロンクス本宅のバルコニーで、お茶の時間に会話する梓と渚。第一・三土日は、母親のもとで過ごすことにしている梓だった。もちろん真条寺家の執務も休みである。また世話役の二人も水入らずの母娘の会話を邪魔しないように席を外している。
『梓、眠くないの?』
『大丈夫よ。飛行機の中でぐっすり寝たから』
『無理して、私達に合わさなくてもいいのよ。会いに来て元気な姿を見せてくれただけで、母親として嬉しいんだから』
渚が心配しているのは、日本とニューヨークの時間差、昼と夜がほとんど正反対になっているからだ。今こちらでお茶を楽しんでいる時間は、日本ではぐっすり眠っている時間であるからだ。本来なら眠っている時間に無理に起きていて、体調を崩して欲しくないと切に心配しているのだった。
『そうは言ってもお母さんが寝てる時に起きてて、起きてる時に寝ていたんでは、こちらに来た意味がないわよ。麗香さんには、寝ていなさいと言ってあるけどね』
『しようがない娘ねえ……』
『時間の問題がなければ、絵利香も連れて来るんだけどね』
『慎二君とは、その後うまくいってる?』
突然話題を変えて切り出す渚。
『なんで慎二が出てくるの?』
『だって、好きなんでしょ』
『だ、誰が、好きなものか。ただの喧嘩相手だよ』
『でも喧嘩するほど、仲が良いっていうじゃない』
『そんなこと……』
否定できない梓だった。
『ともかく、あなた一人だけでなく彼もたまには一緒に連れておいでよ』
『なんでなのよ。どうしてそんなに肩入れするの?』
『一応、沢渡君はあなたの婚約者ということになってますからね』
『こ、婚約者……、いつからそんな話しができてるのよ』
『あなた誕生日に、招待された俊介君と彼を戦わせたじゃない。そして彼は、見事俊介君に勝ったわよね』
『それがどうしたのよ』
『しきたりのなかにあるのよ。真条寺家の娘を嫁にしたき者は、娘が指名した者と戦って打ち勝つべし、さすれば望みをかなえよう。とね』
『そんなしきたり、知るわけないじゃない』
『真条寺家の娘と花婿候補の男性が決闘することを承認することは、すなわち結婚を許諾したことになるのよ。そういうわけだから、彼はあなたと結婚する権利を持っているわけ』
『承認ったって、単に決闘に立ち会っただけじゃない。それに花婿候補ってどういうことよ』
『立ち会えば承認したことになるのよ。神条寺家が婿候補として西園寺俊介君を送り込んできていたのは知ってるわよね』
『知ってるわよ。馴れ馴れしくて嫌気が差してたんだ』
『そもそも、真条寺家の娘が十六歳になるということは、法律上結婚が許されると同時に、花婿候補選びがはじまることを意味しているのよ。家督長であるあなたに限らず、一族郎党すべての娘がね。あのパーティーに出席した若者の大半が、真条寺家にゆかりのある由緒ある血筋の中から厳選された花婿候補だったのよ。麗華さんが一人一人あなたに紹介していたはずだけど。その最後に沢渡君が紹介されたはずよ。彼は私の推薦として特別に候補に入ってもらっていたの。一応命の恩人として、その権利があってもいいでしょ』
『そうだったのか。どうりで馴れ馴れしいやつらと思った。自分が花婿に選ばれようと精一杯だったんだ。その中に紛れ込んできたのが俊介というわけね。もっとも慎二はえさに釣られてやってきたんだろうけど』
『まあ、そういうことね。一応血筋には違いないから、向こうからの祝辞を持ってきた俊介君を断るわけにはいかなかったののよ』
『祝辞ねえ……それ持ってると、誰でも受け入れるしかないんだな』
『まあね、社交上の礼儀よ。例え「村八分」を受けていても冠婚葬祭なら参加しようということね』
『なにそれ? 村八分って、どういう意味?』
『日本の古いしきたりの一つでね、直訳すれば「Ostracism」追放ということになるのだけど。意味が違うわね。八分の残りは葬式と火事の二分ということ。仲間はずれにはするけど、葬式と火事には助け合うという精神よ』
『でさあ……でさあ。その村八分はともかく。決闘に立ち会っただけで、なんで結婚を承認したことになるわけ?』
『それも真条寺家のしきたりよ。決闘して勝った者を花婿とすると決められているのよ。それを知ってか知らずか、あの二人が決闘をはじめて、それにあなたが立ち会った。その他の花婿候補の人たちも、沢渡君が花婿候補だと知らされていたはずだから、決闘で勝利したのをみて、しきたりということで、諦めて全員途中で帰ってしまったわ』
『決闘の後、急に閑散としたような気になったのはそのせいだったのか。でも、たかが決闘ぐらいで、花婿が決められるなんて……』
『真条寺家の跡取り娘でなければね。梓、あなた、自分の立場がどれほどのものかということ、真剣に考えたことあるの? 一国の王にも匹敵する財力と権力を持ち、世界経済を自由に動かすことができるのよ。こんなこと言いたくないけど、一般庶民が手を触れることすらかなわないあなたの御前で戦われた決闘の勝者に、祝福を与えるつまり結婚を承諾するのは当然の義務なのよ』
『そんなこと……』
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梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(五)研究開発
2021.05.08
続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない
(五)研究開発
研究所応接室。
一通りの視察を終えてくつろぐ梓たち。
「最新の研究施設を拝見できて、とてもためになりました。今後もより一層の研究開発の努力をお願いいたします」
「もちろんです。所員一同、梓さまのために精進努力を惜しまないつもりです」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
所長の秘書が差し出したお茶をいただきながら質問をする梓。
「ところで、研究開発となると、いろんな企画案件が提出されていると思いますが、何を選出基準にしていらっしゃるのですか」
「最新の目玉とかいうのはないのですか?」
「そうですね。今一番力を入れているのは、高出力原子レーザー発振技術ですかね」
「原子レーザー? 普通のレーザーとは違うのですか?」
「簡単にご説明致しましょう」
所長が梓にも判るような範囲で説明を始めた。
内容は量子理論から導かれる技術の集大成でもあった。
原子レーザー発振技術は、ある種の原子を絶対零度に近い極超低温状態にさらした時、原子の固有振動の波長と位相が均一にそろって、いわゆるレーザー状態を呈してくる現象を利用している。レーザーとしての性質を持つに至った原子をビーム状に増幅収束して射出する。
通常のレーザーが光子(フォトン)であるのにたいし、重粒子である原子を利用するためにエネルギー効果値は桁違いに大きく、その破壊力はすさまじい。なおかつレーザー特有のエネルギー減衰ロスが小さく拡散しないので、宇宙通信やエネルギー伝達の主役になると見込まれている。なお、悪用すれば超新星爆発{BozeNovaと呼ばれている}に匹敵する破壊力をも実現することも可能である。
原子レーザーを可能にする極超低温状態にある原子がとる特異現象は、二十世紀前半において、インドの物理学者ボーズの理論をもとにアインシュタインが予言したもので、両者の名をとってBEC{ボーズ・アインシュタイン凝縮}と呼ばれており、
1997年1月27日、MIT{マサチューセッツ工科大学}において最初のレーザー発振実験に成功している。
「じゃあ、例えばウランやプルトニウムを原子レーザー化して月とかに掃射すれば、遠距離核爆発を引き起こすことも可能ですか?」
「まあ……すべての原子をレーザー化できるというものではありませんが、不可能とも断言できませんね。しかし、原子レーザーそのもののエネルギーが、ものすごい破壊力を持っていますので、核物質にこだわる必要はありません」
「ふうん……そうなんだ」
「科学小説でプロトン砲とかいうのを聞いたことがありませんか?」
「あるある。聞いたことあるよ」
「早い話が、水素原子核の陽子だけでも、それを原子レーザー砲として利用すれば、陽子の特異作用によって、対象物を破壊することが可能なのです。場合によっては核融合反応を凌ぐエネルギー効果を発生させることもできます」
「プロトン砲が実用化してるのですか?」
「まだ研究段階ですが、陽子レーザー砲による破壊実験には成功しております。厚さ一メートル程度のコンクリートブロックならほんの数秒で破砕できます」
「すごい! すごい! 科学小説の夢物語が実現すぐそこまで来ているんだ」
小躍りするように感激している梓。
それから小一時間ほど所長の解説に夢中になって聞き入っていた梓。
「お嬢さま、そろそろご帰宅のお時間です」
「あら、もうそんな時間なの?」
麗華の言葉で、研究報告ともいうべき所長の解説の時間が終わった。
「とてもためになりました。また今度お伺いしてもよろしいですか?」
「いつでもお越しくださいませ。歓迎いたしますよ」
「ありがとう」
玄関前にてファントムⅥに乗り込む梓を見送る研究所員。
「みなさん、お忙しい中、どうもありがとうございました」
「どういたしまして、またのお越しをお待ちしております」
白井が後部座席ドアを閉める。
窓の内側から手を振る梓。
それに応えて手を振る所員たち。
やがて静かに、ファントムⅥが滑り出すように走り出す。
その後ろ影を見送りながら、所長が呟くように言った。
「高出力原子レーザー発振器による、月面移動基地への高エネルギー伝送実験の企画議案書を提出してみるか」
それを聞きうけて別の所員が答える。
「これまでは、原子レーザー発振器の開発と、無人月面移動基地と原子レーザー発電装置の開発に、莫大な予算が必要でしたから、本格的研究は棚上げになっていた計画ですよね」
「ああ、高出力原子レーザービーム発振器の開発には、高電力を連続供給する原子炉と、超電導回路及びBEC{ボーズ・アインシュタイン凝縮}回路を維持するための極超低温発生装置など、最低でも五千億ドルを越える予算が必要だからな」
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梓の非日常/第三部 神条寺家の陰謀 part-1
2021.05.07
第三部 神崎家の陰謀
ノベルアドベンチャーゲームシナリオ(小説版)
part-1
目が覚めると、何も見えない暗闇だった。
「ここはどこだ?」
どうやらベッドの上に寝ているようである。
「くうっ!頭が痛い……」
どうやら、誰かに催眠剤のようなもので眠らされて、ここへ運び込まれたようだ。
「……」
思い出そうとするが、何も思い出せない。自分が誰なのか?名前さえも覚えていない。
いつまでもこうしていても仕方がない。彼は、ベッドを降りて辺りを探り始めた。
「出口はどこだろう?」
何も見えないので、慎重に足を運ぶ。
「痛い!」
何かに躓(つまづ)いて転んでしまう。
ともかく、この現状を打破するためにも、
調べる以外にないだろう。
床をまさぐるようにして、
躓いた何かを触ってみる。
何か生暖かい物に触れた。
さらに場所を変えて触っていくと……。
「足だ!」
人間の足のようだった。
なんで人間が倒れているのか?
生きているのか?
「あの、あなた……」
声を掛けてみるが、返事はない。
足から胴体へと移っていく。
「服を着ていない?」
裸のようであった。
胸のところにきた時、なにかヌメヌメした液体に触れた。
裸でヌメヌメした液体……。
「血だ! 死んでいる?」
どうやら、血を流して倒れている。
驚いて、その身体から離れ引き下がってしまう。
人死には怖いので、部屋を調べることにする。
四つん這いで壁際にたどり着いた。
立ち上がり壁沿いにドアがないか調べはじめる。
手を一杯に上へ伸ばしたり、
床付近まで降ろしたりして感触を頼りに、
丁寧に壁を調べて回る。
ドアが見つかった。
しかし鍵が掛かっているようで、
ドアノブをガチャガチャ動かしてみたり、
体当たりして開かないかチャレンジしたが、
びくともしなかった。
鍵穴らしきものはあった。
「鍵が必要だな」
念のため四回、部屋の角を回ったが、
他に出口らしきものは見当たらなかった。
鍵ならば、床に倒れている人物が持っているかもしれない。
もう一度、人物を調べてみるしかないようだ。
人物の所に戻ってみる。
手探りで調べると、胸にナイフのようなものが刺さっていた。
やはり死んでいるようだ。
血液が完全に固まっていないところをみると、
死んでからそう時間は経っていない。
結局何も身に着けていないことが分かった。
他に調べられるとしたら、
「俺の寝ていたベッドか……」
自分が寝ていたベッドに戻って調べ始める。
鍵が見つかれば良いが、
なければせめて明かりが欲しいところだ。
暗闇の中、手探りでは見つかるものも見つからない。
布団を退けたり、枕の下を探ったりしたが、何も見つからない。
つと、つま先にコツンと何かが当たった。
コロコロと転がる音。
「何だ?」
音を頼りに、その何かを探し求める。
「確か、この辺で止まったような気がするが……」
手探りで床をくまなく探すと、それは見つかった。
「百円ライターか!」
千載一遇(せんざいいちぐう)の好機。
これの火が点けば現場がはっきりと見渡せるはずだ。
ただし、遺体の惨状も目に飛び込んでくることになる。
しかし躊躇していられない。
ここから出るためには、そんなことは言っていられないのだ。
無臭の引火性ガスが漂っていたら一巻の終わりだが……。
しかし、明かりがなければ解決の糸口を見つけることも叶わない。
ライターの火を点ける。
真っ暗闇の中に、ライターの火が辺りを照らした。
床に倒れている人の姿が浮かび上がる。
どうみても裸で死んでいるとしか思えない。
人の方には意識しないようにして、周囲を見渡す。
部屋の中は、殺風景なまでにベッドしかなかった。
窓はなく、出入り口はあのドアだけなのか?
そのドアの壁際に照明用のスイッチらしきものがあった。
暗闇で調べた時には気がつかなかった。
スイッチを入れて照明が点いたら、 犯人に察知されるかも……。
そう思ったが、心細いライターの灯りだけでは、物を探すのは辛い。
スイッチを入れてみると点かなかった。
「電気が通じていないのか?」
天井の照明に向けて、ライターをかざしてみる。
蛍光管が入っていなかった。
ずっとライターを点けていたので、手元が熱くなってきていた。
ガスが無くなっては大変だ。
火を消し、ベッドに腰かけて考えることにする。
これまでのことをまとめてみる。
・そもそも、自分がここに運ばれた理由や経緯。
・そして何より、床に倒れている遺体。
・遺体のナイフはいずれ役に立つかもしれない。
・ドアを開けるには鍵が必要。
・部屋をくまなく捜索するには、やはり天井の照明が重要だろう。
点くかどうかは不明だが。
・ライターのガスには限りがある。
考えても分からないので、捜索を再開することにする。
ライターを点けて、もう一度部屋の中を見渡した。
ベッドと遺体の他は何もない。
「……? ちょっと待てよ」
彼は気が付いた。
遺体から流れ出た血液が、一部途切れていたのだ。
それも直線的にだ。
まるで吸い込まれるように……。
よく見ると床に正方形の溝があり、埋め込み半回転式の取っ手が付いていた。
台所によくある床下収納庫のようなものではないのか?
遺体のナイフを不用意に抜いて、さらに血が流れていたら、溝を埋めて気付かなかったかもしれない。
「もしかしたら、この下に何かあるのか?」
遺体に怖がって注視していなければ、完全に見落としていた。
ただ、遺体が上に乗っているので動かさなければ、蓋を開けられない。
触るのは怖いが……。
遺体を動かして、床下収納庫を調べることにする。
蛍光管と懐中電灯があった。
懐中電灯のスイッチを入れると、点いた!
「やったあ!」
思わず声を出して喜ぶ。
さらに天井の蛍光灯が点けば、この部屋全体をくまなく調べられそうだ。
蛍光灯を点けたまま床に置いて、ベッドを蛍光灯の真下に動かし、蛍光管を取り付けた。
そしてドアそばの照明スイッチを入れた。
「点いたぞ!」
蛍光灯の明かりが、こんなにも頼もしく感じたことはない。
ライターに比べれば、眩いばかりの光によって、捜索は捗るかと思われる。
今まで気づかなったことも明らかになるだろう。
もう一度念入りに部屋の中を探し始める。
壁に色が変わっている場所があった。
手のひらを当てて、右にスライドさせると、中は戸棚となっていた。
「鍵だ!」
十本くらいの鍵の束が入っていた。
「これで扉が開くか?」
小躍りしてドアの所に駆け寄る。
「だめだ! 合わない」
いずれの鍵もドアの錠前には合わなかった。
消沈するが、鍵は後で役に立つかもしれないと持っていることにした。
「待てよ。床下収納庫って確か……」
思い出した。
床下収納庫は、ボックスが外せるようになっていて、
床下に入れるようになっているはずだ。
ここにはもう何もないようだ。
床下に降りることにする。
ボックスを枠から外して床下に降りる。
遺体に突き刺さったナイフが目に入った。
そうだ!
自分を閉じ込め、殺人を行った犯人がまだどこかにいるかもしれない。
身を守るためにも、武器は必要かも知れない。
「なんまんだぶ……」
ナイフを引き抜いた。
血液がいくらか流れたが、広がるほどではなかった。凝固が始まっていた。
懐中電灯片手に、床下へと降りる。
念のために床下収蔵庫の蓋を閉めておいた。
「ここにも遺体がありませんように」
殺人事件ではよくある話で、床下や天井裏に隠すものだが。
上の方で、ドカドカと大勢の人間の足音が聞こえて来た。
どうやら警察官が入ってきたみたいだ。
「人が倒れています! 死んでいます。 なんだこれは! 毒ガスだ、一旦退避しろ!」
そんな叫び声が聞こえてきた。
「危なかったな。いずれここも見つかるだろうが、しばらくは時間稼ぎができる」
祈りながら、床下を懐中電灯で照らす。
這いずり回っていくが、本当に別の出口があるのか心配になってくる。
そもそも、今は何時なのだろうか?
昼なのか夜なのか……。
今のところ完全に閉ざされた空間ばかりなので、外からの光が入ってこないから、判断不能であった。
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2021.05.09 13:37
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