梓の非日常/第二部 第二章・宇宙へのいざない(一)視察
2021.05.03

続 梓の非日常/第二章・宇宙へのいざない


(一)視察

 とあるビルの前に停車しているファントムⅥ。
 麗香が後部座席のドアを開けて、梓が降りて来る。
「このビルは賃貸ですが、全館をAFCが借り受けています。実際に入居しているのは、広告代理店とグループの機関紙『あずさ新報』などを出している新聞社です」

 ビルの中に入る梓。
 自動ドアを通り抜けて玄関内に入るが、ふと立ち止まって動かなくなる。
 鼻をひくひく動かして匂いを嗅いで、髪の毛に手をやって気にしている。
「匂いませんか?」
 麗香に確認をとる梓。
「はい。匂いますね」
 しばし立ち止まって玄関先から中の様子を伺う梓だったが、
「帰ります」
 といって、くるりと背を向けて、入ってきたドアから出ていってしまう。

 玄関前の駐車場で、ファントムⅥを磨いていた白井だったが、梓達が舞い戻ってくるのを見て不審そうに尋ねた。
「どうなさったのですか。中に入られたと思ったらすぐ出てこられるなんて」
「煙草ですよ」
 麗香が説明する。
「煙草?」
「玄関先に、煙草の匂いが漂っていました。ビルの入り口ではっきりと嗅ぎ分けられるくらいですから、奥に行けばもっとひどい状態なのは推測できます」
「そうでしたか。わかりました」
 麗香の言葉に納得して、後部座席のドアを開けて梓の乗車を促した。
「なんてこと……」
 と呟きながら乗車し、深々とシートに沈む梓。
 梓は、煙草の煙と匂いが大嫌いで、自慢の長い髪に煙草の匂いがつくのが我慢できないのだ。煙草の匂いは一度付着するとなかなか落ちないからやっかいで、煙草の煙が漂う場所には絶対に近づかない梓だった。
 そのことを充分承知している麗香と白井は、梓が帰ると言えば理由を聞くことなく黙って従うだけである。当然視察は中止、梓の隣の席に座った麗香は車載電話でビルの責任者に連絡を入れている。
「禁煙の勧告令は届いていないのですか?」
 梓が代表に就任してすぐに、全グループ企業に対して、社内禁煙の大号令を発したのだった。
「いえ。何せ新聞社ですから、一番に連絡が入っているはずです。グループ全体に知らせるため『あずさ新報』に勧告令の記事を書かせましたから」
「それで、このていたらくですか?」
「勧告令は記事にしただけで、自らは何も実行していないようです」
「部長職以上の役員を、全員懲戒戒告、五分の一の減給三ヶ月。社長は更迭します」
 毅然とした表情で、処罰を言い渡す梓。
「かしこまりました。明日査察官を派遣して処分を通達します。次期社長の人選は任せていただけますか?」
「よろしくお願いします」
 AFCないしその前身であるNFCから全額出資されて設立されたグループ企業は、その責任者に経営をすべて任される代わりに、経営実情の把握のための定期的な査察の立ち入りと、全グループ企業に発令される勧告令に従う義務がある。CEO(最高経営責任者)ないし社長はすべてAFCが任命するので、その処遇も代表である梓が権限を握っている。代表が発令する勧告令は絶対であり、断固とした処分は当然のことである。
「社内禁煙をグループ企業のすべてに徹底させてください。灰皿はすべて処分、喫煙室も撤去すること。これに違反するものは厳重に処罰してください。今後部長職以上は非喫煙者から選抜、現在喫煙している者は一ヶ月以内の禁煙を、それが出来ないなら更迭。喫煙者の昇進と昇給は一切なし。新規採用者は非喫煙者のみにしてください。以上の事、よろしいですか?」
「かしこまりました」
 梓が喫煙排除にこだわるのは、健康への配慮のためもあるが、一番の理由は喫煙者の息がくさくてたまらない、ということにある。ニコチン・タールの匂いもさることながら、歯磨きが不十分で歯垢がたまってたり、歯周病になっていたりして強烈な異臭がするからだ。喫煙者なら誰も経験するが、歯を磨こうとすると吐き気を覚えて十分に歯磨きができない。自然歯垢がたまってくさくなるということだ。
 その口臭のひどさといったら、十六歳の少女には近づきがたい状況なのだ。当の梓は、三食後及び寝起きの歯磨きはもちろんのこと、毎週定期的に歯科医院で検診を受けているし、歯磨きでは落としきれない歯垢の除去も丁寧に行っている。これは幼児の頃から母親の渚に指導されてきたことで、おかげで口臭は微塵もないし、虫歯一本ない健康優良児である。
「煙草なんて百害あって一利なしじゃない。気分を落ち着かせるのに効果があるというけど、要は精神力が弱いだけよ。仕事中に煙草を吸うのはもってのほか、机の上は灰で汚れるし空気も濁る。煙草を吸う人ってマナーの悪い人が多過ぎるわ。歩き煙草、吸い殻のぽい捨て、車内で吸った灰皿の中身を平気で道路にぶちまける人」
 憤慨やるかたなしといった表情の梓。喫煙者の徹底排除に精根傾ける所存のようである。総従業員数三百二十万人を擁するグループ企業の行く末は、清潔好きな梓の意向には誰も逆らえず、麗香という有能な執行代理人の実行力で、さぞかしクリーンなイメージの企業へと変身していくのだろう。
「これからどうなされますか?」
 麗香が話題を変えるように切り出した。
「そうね。このまま帰ったのでは何の為に出かけてきたかわからないわね。帰りの途中にグループ企業はありますか」
「若葉台にAFC直営の衛星事業部若葉台研究所があります」
「それにしましょう。白井さん、行き先を若葉台にしてください」
「かしこまりました、お嬢さま。若葉台研究所に向かいます」
 二人が乗り込んだのを確認して、静かにファントムⅥを発進させる白井。
「ところで、私が差し上げた携帯電話は、お持ちですよね」
「ああ、これね」
 梓は鞄から、いつも使っている携帯を取り出して見せた。
「はい、結構です」

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梓の非日常/第二部 第一章・新たなる境遇(六)契約更改
2021.05.02

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇


(六)契約更改

 梓の十六歳の誕生パーティーは一騒乱はあったものの、一応の決着を見て無事に終了した。
 真条寺空港からそれぞれの国家元首や大使、招待客が帰って行く。
 もちろん。
「この借りは必ず返すからな」
 という俊介の姿や、
「おうよ。いつでも受けて立つぜ」
 という慎二もいる。

 真条寺家の執務室。
『あなたをお呼びしたのは他でもありません。今後の梓とあなた自身についてです』
『お嬢さまと私自身ですか』
『これまで世話役として梓の面倒を見てくださったこと感謝いたします。梓もAFCの代表として就任したからには、今まで通りというわけにはいかないでしょう。そこで世話役としての契約更改を致したく、お呼びした次第です』
『契約更改ですか』
『今後、世話役としてのあなたの位置付けは、もっともっと重要になってくるでしょう。私があなたに期待しているのは、梓に対して親身になって相談にのってあげられること、時には厳しく忠告できる人物であることです。
 命令にただ服従するだけの番犬は必要ありません。ニューヨークからずっと一緒に暮らしていたせいか、梓はあなたのことを姉のように慕っていますし、あなたの言うことなら素直に従います。その点、あなたなら申し分ないでしょう。年棒は、取り敢えず現在の二倍の百万ドルくらいからが丁度良いかと思います。梓はまだ学生ですから。いかがです、引き受けては頂けませんか?』
『はい。喜んで引き受けさせていただきます。身に余る光栄と存じます』
『ありがとうございます。梓を悲しませずに済みます』
『いえ、こちらこそ、お嬢さまとこれまで通りに過ごせるなら幸せです』
『それでは、こちらの契約書に良く目を通し、サインしてください』
『かしこまりました』
 契約書にゆっくりと目を通している麗香。
『梓の世話役としての必要経費は、年間あたり十億ドルまでなら、私と梓の許可を取らなくてもあなたの判断で決済を行ってかまいません。それくらいでいちいち許可を取っていたら仕事になりませんからね』
『十億ドルですか』
『少ないですか?』
『いえ、それで充分だと思います』
『梓が大学を卒業して正式に代表に就任し、世界中を飛び回るようになれば、年棒及び必要経費は十倍くらいに増やしても構わないでしょう。もっとも梓が、あなたを必要とし妥当な金額だと判断すればですが』
 麗香は、契約書を読み終えて、サインを添えて渚に返した。
 サインを確認した渚が、契約書を机の中にしまい込み、
『結構ですわ。これで契約更改は完了しました。契約書の写しは後日渡します。では、これをご覧ください』
 と言って、机の操作盤をいじると、背後のパネルに映像が映しだされた。

『こ、これは?』
 そこには、屋敷のテラスで仲良く談笑する梓と絵利香が映っていた。
『この映像は、地球軌道上を回っている人工衛星からリアルタイムに送られてきているものです』
『はい、存じております。以前執務室にお伺いした時に、たまたまこの映像が映されていまして、恵美子さまから簡単な説明を受けました』
『そうでしたか、恵美子さんの判断なら構わないでしょう。とにかくたった今、この時間の梓の映像です。梓がどこで何をしているか、宇宙から二十四時間体制で監視しているのです。もっとも本人には何も知らせていません』
『誰しも、監視されていると知ったら気分を害しますね』
『ですから絶対に本人に気づかれてはなりません。このことを知っているのは、私と恵美子さん。篠崎良三氏、そして、衛星をコントロールしている女性オペレーターだけです。今日からはあなたもその中の一人です』
『女性オペレーターですか。まあ男性には任せられませんね。あと篠崎重工の社長さま』
『篠崎さんには、梓といつも一緒にいる絵利香さんとの兼ね合いでお教えしています』
『お嬢さまに何かあれば、とうぜん絵利香さんにも関わってきますね』
『正確にいうとこの映像は、資源探査気象衛星、英字で呼称される「AZUSA」から送られてきています。この衛星は各種の電磁波、レーザー探知装置を駆使して資源を探し、気象情報を集めるのが本来の仕事なのですが、最新鋭の超高解像度地上監視カメラを使って、梓を追跡することも任務にしています。名前の由来もそこからきているのですが、予備機も含めて五機の衛星が入れ代わり梓を捕らえています』
『すごいですね。宇宙から個人を識別できるなんて』
『あなたの役目の一つとして、この衛星の管理も最重要課題として入っています。これまでは恵美子さんが管理していましたが、今日からはあなたの役目です。もし故障したり、具合が悪くなったときは、即座に代替機を発注してください。打ち上げ費用を含めて、一機あたり七千万ドルです。必要経費を使ってください』
『一分一秒でも、お嬢さまを見失ってはいけないということですか?』
『その通りです。衛星の生産と管理は日本の若葉台にある財団法人AFC衛星事業部及び衛星監視センター。打ち上げロケットは篠崎重工ロケット推進事業部が担当しています。ここに連絡先が書いてあるので担当者と打ち合わせしておいてください。もうひとつ大容量・高速通信用静止衛星、平仮名で呼称する「あずさ」というのもありますが、その辺のところもその担当者から説明を受けてください』
 渚が連絡先の記された用紙を麗香に手渡す。
『話しは以上で終わりです。くれぐれも梓のことよろしく頼みます』
『はい。わかりました』

 一礼してオフィスを出ていく麗香。
『あ、麗香さん。お母さんと、どんなお話しをしてたの?』
『はい。今後も娘の梓のことお願いしますって、渚さまに言われて』
『なあんだ、そんなことか。これからもずっと一緒だよね、ね?』
 梓が、麗香を見つめるようにして、その手を取り握り締めた。それは、梓が不安を感じた時にいつも取る行動だった。声と表情は平静を装っているが、梓の手の平は緊張感から汗ばんでいた。
『はい、もちろんです。お嬢さまが、私の事をお嫌いにならない限り』
『よかったあ。それなら大丈夫だよ。麗香さんのこと信頼してるから』
 梓の表情から緊張感がほぐれるのがよく見てとれた。麗香の頬に軽くキスをしてから、『うふふ。これから絵利香ちゃんと買い物なんだ。麗香さんも一緒においでよ』
 といって麗香の手を引っ張っていく梓。

 フリートウッドに乗り込む梓達。麗香は、ふと空を見上げてみる。
 ……今この時も、空の上から監視は続いているのね……
『麗香さん。今日は一日中晴れだよ』
 何も知らない梓の言葉に、思わず苦笑する麗香。

第一章 了

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梓の非日常/第二部 第一章・新たなる境遇(五)決闘!
2021.05.01

続 梓の非日常/第一章・新たなる境遇


(五)決闘!

「おい、梓ちゃん。映画とかでよく見る光景だけど。もしかして、これって……決闘だっ! ってやつじゃない?」
「もしかしなくても決闘の申し込みだよ」
「やっぱり!」
「貴様のような奴に、いくら口で言っても判らないようだからな」
「おう! やったろうじゃないか。で、決闘の方法は?」
 決闘を申し込まれたというのに、明らかに喜んでいる風の慎二。
「最近、暴れていないからなあ……。腕が鳴るよ」
 指をぽきぽきと折り鳴らしながら臨戦態勢に入ろうという感じか。
「野蛮な貴様のことだ。どうせ、喧嘩ぐらいしかしたことないのだろう」
「おうよ。喧嘩は三度の飯より好きだぜ」
 という慎二に頷く絵利香。
(まあ、最近は梓ちゃんの手前、手を出すのを控えて耐えているのをよく見かけるけどね)
 その屈強な精神と肉体を有する慎二には、心配するようなものはなさそうであるが、相手の俊介の方が、やはり気になるところではある。
(大丈夫かしらね……)
「いいだろう。決闘の方法は、自分の腕と足が頼りの拳法ということにしようじゃないか」
「拳法か……。いいね、それでいこう」
 というと後ろに下がって構える慎二。
 俊介の方も、片足を引き両腕を軽く胸の前に置いて構えていた。
 そんな俊介の構えを眺めている梓。
 さながら自分を取り合って決闘をはじめた相手を前に、心配顔で成り行きを見守ろうとしているお姫様って様子だろうか。
「ふうん……。見たところ、隙だらけって感じだけど。誘いの隙ってやつかな」
 二人は対峙したまま動かなかった。
 相手の様子を窺いながら、出方を待っているのだ。
 慎二も不用意に仕掛ければ、相手の思う壺というのが判っている。
「どうした、掛かってこないのかい?」
 俊介のほうから言葉をかけてきた。
「いやなにね。貴様のテコンドーの足技を警戒しているだけなんだけどね」
 その答えを聞いて表情を変え、感心したような口調で返す俊介。
「ほう……構えだけから、私の得意種目を言い当てるとはただものではないな」
「百戦錬磨だからな。いろんな奴とやってる中には、テコンドーを武器とする奴がいたというわけさ。足技はリーチが長く破壊力も抜群だからな。一撃必殺、そうやってわざと誘いの隙を作って、相手が殴りかかってくるのをじっと待ってるのさ」
「さすがだな。そこまで見切っているとはね。こりゃ、早まったかな」
「何をおっしゃる。自信満々のくせに」
「しかし、こうやって睨み合っていても勝負はいつまでたってもつかないぞ」
「そうだな。ここは一発、相手の実力を測るためにも、あえてその手に乗ってみるもんだ」
「こっちはいつでもいいぞ」
「では、いくぜ!」
 というと、相手の懐に向かって突進する慎二。
 俊介はそれを軽く交わして、大きく足を振り上げた。
「ヨブリギか!」
 慎二を交わして、俊介が仕掛けた技は、ヨブリギと呼ぶ逆廻し蹴り。内側から横に振るように蹴る技である。
 技が見事に決まって吹き飛ぶ慎二。そばにあった大木の幹に激突し、その根元に崩れ落ちた。



「馬鹿が! 俺のテコンドーを交わした奴はいないんだぜ」
 動かない慎二。
「気絶したか……。たいした奴じゃなかったな」
 と、梓の方へ歩み寄って行く俊介。
「君が、どうしてあんな野蛮な奴と付き合っているのかは知らないが、君にはふさわしくない」
 それをさえぎるように言葉を繋げる梓。
「この僕が理想の男性だ。とでもいいたいのか?」
「その通りだよ。財力、学力、ルックスとも最上だ」
「言ってろよ。それより、決闘を放棄するつもりか?」
「放棄? 奴なら死んだ」
「ははん。後ろを見てみろよ」
 俊介が振り向くと、大木に寄りかかるようにしながら、ゆっくりと立ち上がろうとする慎二の姿があった。
「馬鹿な! 僕のヨブリギを受けて立ち上がった奴はいない」
 その声に答える慎二。
「それが、ここに居るんだよな」
 すでにしっかりと両足を踏ん張って立ち上がっていた。
「この死にぞこないめが」
 そして再び俊介に挑みかかって行った。
 俊介は今度もその攻撃を交わして反撃を加えた。
「ネリョチャギ・チッキか!」
 脳天蹴りという、足底を真上から打ち下ろす蹴りを受けて、俊介の足元に臥す慎二。
 しかしすぐに立ち上がった。
 起き上がっては挑みかかって倒されるというのを繰り返していた。
 半月蹴り(パンダルチャギ)。接近した間合いから外廻しまたは内廻しで蹴る技。
 後ろ蹴り(ティチャギ)。振り向きながら直線的に蹴る技。
「しかし、すごいな。あれだけ大きく足を振り回しているのに、全然体勢が崩れていない」
 感心している梓。
 そのそばで心配顔の絵利香。
「そんな悠長なこと言ってていいの? 慎二君、やられっぱなしなのよ」
「大丈夫だよ。そのうちにけりがつくよ。もちろん慎二の勝ちだ」
「どうしてそうなるの?」
「よく見ろよ。俊介の息が上がってきているよ」
 梓の指摘の通りに、俊介は汗を流し呼吸も乱れて、肩を震わせていた。
 どうやらこんなにも長期戦を戦ったことがないのだろう。
 一方の慎二は身体中傷だらけになってはいるが、しっかりと両足で立ち意識も明瞭のようであった。
「な、なんてしぶとい奴なんだ」
「教えてやろう。おまえが対戦した相手は、せいぜい試合でのことだろう。百戦錬磨で鋼の肉体を持つ俺には、どんな技も体表面を傷つけはするが、五臓六腑には届くことはない。どんなに傷ついてもすぐに回復するぜ。そして俺の喧嘩拳法は、相手に合わせて無限に進化する究極の技だ。テコンドーなんざ、空手を模倣した猿芝居にすぎんわい。テコンドーの試合を見たことがあるが、足を振り回すだけのダンスだよ」
「言わせておけば!」
 俊介の足技が再び飛んでくる。
 しかし慎二はそれを交わしたのだった。
「は、はずしたあ!?」
 足技が宙を切り、体勢を崩す俊介。
 次の瞬間だった。
「真空透徹拳!」
 慎二が掛けた技が決まり、宙を舞って吹き飛ぶ俊介。
 どうっ、とばかりに地面に激突してそのまま気絶してしまった。
 ついにというか、勝負は一撃で決まった。
 慎二が放った大技に茫然自失となる梓だった。
「あ、あれは……。聖龍拳!」
 それはかつてスケ番蘭子との決闘で梓が見せ付けた、沖縄古流拳法の一撃必殺の奥技、聖龍掌に他ならなかった。
 放心したように呟く梓の声が聞こえなかったのか、
「慎二君、すごいね。たった一撃で倒しちゃったよ」
 絵利香は興奮した表情で、慎二のほうへ駆けていった。
「おうよ。俺は、無敵だからな」

 こうして決闘は慎二の勝利で終わった。

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